主を仰ぎ見つつ

キリスト教的思索

悲しすぎて、どう伝えていいかわからない話です

<ガソリンスタンドで働いたことがありました>


教会からの帰り道、妻が急に「あなたもガソリンスタンドで働いていたことがあったわね」と言いました。私は、走馬灯のようにその頃のことを思い出し、「うん、・・・その頃の話はまた後でする」と答えていました。


時は、1970年から71年にかけての話です。私が、コンピュータの学校を卒業した時、アメリカは大不況に突入しており、就職ができないという状態でした。


(1970年10月8日の新聞:南加州のガス会社がメーターを読む人を4人雇うという広告に集まった人達です)


私は学校を卒業し、トレーニングビザをもらって、会社に入り、その会社を通してアメリカの永住権を取得しようとしていました。ので、就職は必須でした。私は、毎日、就職のために飛び回っていました。毎日のようにコンピュータ関係の会社を訪問し、履歴書を置いてきたのです。


<ガソリンスタンドで声をかけられました>


その頃のガソリンの値段は、1ガロン(4リッター)44セントぐらいでしたか、いつも安いガソリンスタンドで給油していました。


そこの持ち主らしいラテン系の男の人が近寄ってきて、“何をしているのか?”と訊いてきたので、“仕事を探している”と答えました。彼も私のことが分かったと思います。ぼろ車に乗りながら、身なりはきちんとしていたからです。(スーツは着ていなかったけど、シャツとネクタイ。)


“うちで働かないかい”と言いました。私は苦笑しながら“コンピュータの仕事をしなければならないんだよ”と答えました。彼は“仕事探しの合間に働かないか、という意味だ”と言いました。私は少し考えてからOKと言いました。そして、そこで働くようになったのです。


彼は私のことを信用してくれて、どこに金庫が隠してあるのか、どこに拳銃をしまってあるのかまで教えてくれました。彼は、普通のガソリンスタンドのオーナーの恰好をしていましたが、結構、学歴もあったのではないか、と今思い返しています。小柄でかわいい奥さんがちょうど妊娠中でおおきなおなかをしていました。素敵なカップルでした。


<就職に苦労し、永住権を取るのに辛苦しました>


私は、奇跡的に(本当に)奇跡的に就職し、会社を通して永住権を申請したのですが、移民局に行く前に労働局で(失業率が高すぎる職種だという理由で)却下され、直ちに出国するようにとの通知をうけました。いわゆる Deportation Notice(出国命令)です。


あきらめて日本に帰ろうと思いましたが、私の日本での居住権はなくなっていましたので、妻は日本へ私は韓国に行かなければならないという事態になりました。この時は、本当にお先真っ暗でした。


弁護士を雇い、サンディエゴに居た姉が市民になって、その姉を通して永住権(グリーンカード)を取得するまでの数か月を、アメリカに滞在させてほしいと嘆願し、それが受け入れられて、何とか息をつくことができたのです。


そして、私は、弁護士の手紙(手続き中なので、仕事につけるという内容の)をもって再び就職活動を始めました。


具体的な話を全部省いて、私は、Pacific Far East lineという船会社に就職しました。アメリカで初めての安定した就職でした。そこで、数か月たった時、(ずいぶんご無沙汰している)あのガソリンスタンドのオーナーのことを思い出し、電話をしました。そしたら、電話がdisconnect(不通)になっています。どうしたのかと思って、彼の自宅に電話しました。


電話が鳴り、奥さんが出ました。“あ~よかった。ガソリンスタンドに電話したら不通になっていたので、心配しました”と言うと、少し間をおいて(うわーと泣き出して)、“夫は撃たれて死にました!”と途切れ途切れに話すのです。私は、唖然としてなんと言ったらいいのかわからずに、そのまま切ってしまったのです。


私は毎日のように、彼女に電話しなければと思いながらも、なんと言っていいかがわからないので、結局、それ以後音信不通になってしまいました。今では、電話番号も失ってしまいました。


アメリカでは、このようなことが日常茶飯事のごとくに起こっているのですね。


<天国で彼らを探せるだろうか?>


私は、彼らの名前も思いだせません。あのガソリンスタンドがどこにあったのかも忘れてしまいました。ほんの数か月の付き合いでした。でも、彼らの親切は忘れていません。


否、あの奥さんの泣き声を忘れることができないのです。私たちも生きるのが大変な時でした。私は、彼女を慰めることができなかったし、何らかの援助をすることもなかったのです。


今となっては、天国で彼らに会うことだけが希望なのですが、彼らを探しだせるかわかりません。いや、探しだすつもりでいます、天国で。


『(1) わたしはまた、新しい天と新しい地とを見た。先の天と地とは消え去り、海もなくなってしまった。・・・人は神の民となり、神自ら人と共にいまして、 (4) 人の目から涙を全くぬぐいとって下さる。もはや、死もなく、悲しみも、叫びも、痛みもない。先のものが、すでに過ぎ去ったからである。』(黙示録21章1…4節)


文責: ロバート イー

×

非ログインユーザーとして返信する