主を仰ぎ見つつ

キリスト教的思索

クリスチャンは、ふたつの世界に生きる


<この世の価値とあの世の価値>


私たちは、この世に生を受けて、この世のしきたりを学びながら成長し、社会の一員となります。いろいろな国があり、いろいろな社会がありますが、それらは、すべて「この世の価値観」に支配されている社会です。


その価値観は、“自分を大切にする”ところから始まります。でも、みんなが自分だけよければ何をしてもいいということになると社会に秩序がなくなり、無政府状態になります。これは怖い状態で、戦争を経験した人にはわかる状態です。(マキャベリーが「悪君といえども君主なり」と言ったのには、こういう背景があります。)


それで、いろいろな道徳律が生まれてきました。古くから伝わるウル・ナンム法典とかハンムラビ法典なども社会に秩序をもたらすものとしてつくられたものです。


<クリスチャンの価値観は、聖書の価値観です>


神さまを信じ、神さまのみ心をなそうとする人がクリスチャンです。その価値観は、聖書からきます。イエスさまの教えが基本になります。イエスさまの教えを、その弟子たちの教えを(この世の現実の世界で)守るというのは大変なことです。


私は、この世の企業の競争を勝ち抜くための戦闘員でした。会社の益を求めて毎日働いていたのです。ある時、競合会社の工場が火事になったというニュースが入り、みんなが集まりましたが、その時のみんなのうれしそうな顔を今も思い出します。


「人の不幸は蜜の味」というのだそうですが、この際、うんと儲けてやろうという訳です。勿論、逆のことが起こります。自社で品質問題が起こり、製品を回収しなければならない時は、競合会社がいかに喜んだことだろうか。


そこに、イエスさまのいう「愛」があっただろうか。そんなものは、すこしもなかったのです。


<主にある友、Mご夫妻が来られた>


Mご夫妻は、日本の大手の商社からアメリカに3度も出向された方たちでした。ロサンゼルス(オレンジ郡)、NYそしてサンフランシスコ(サンノゼ)に駐在したのです。私たちは、ロサンゼルスとサンフランシスコでお交わりさせていただきましたが、2年前にメモリーレイン(過去の思い出をたどる目的)で遊びにきました。


Mご夫妻と一緒に、オレンジ郡で彼がかつて働いていたという会社を訪ねた時でした。私たちは外で待っていたのですが、もう彼を知る人はいないだろうと思っていたのに、当時働いていた人がまだ数人いて、“Mさん!”と飛んできたというのです。そして「彼は、いままでで最高の上司だった」と言ってくれたというのです。


そう聞いて、私はジーンときたのです。何十年もたって、自分が働いていたところに戻ってきて、そんな風に覚えられていたというのは、なんと素晴らしいことだろうか。彼の信仰が生きていたということだと思います。


<厳しい労使の対立の中から>


Mさんがオレンジ郡の会社に赴任した時、会社では産業組合オルグの煽動があって、社員は組合結成を求めました。オルグのもと話し合いに応じない為会社を一時閉鎖しなければならないという危機があったそうです。結局、社員は、組合に参加しないことになったのですが、その後の労使関係は大変だったことと推察します。


その頃でしょうか、Mさんの奥さんが私たちの教会に来られるようになり、ご夫妻は信仰を得るようになったのです。私は、そんなことも知らず、Mさんたちのことをあの安楽な駐在員と思っていました。


Mさんは、そのように、社員と経営者との対決を経験したのですが、その後、次第に社員の信頼を得ることができるようになり、楽しく仕事をすることが出来たとのことです。それにしても、それからもう数十年たつ今に至るまでMさんを慕っている人たちがいるというのは、すごいことだと思いました。


Mさんがいかに自分の部下たちを大切にしていたかという証拠です。彼は、(単に利益追求だけにとらわれることなく)部下を同志としては、毎日一緒に働いていたんですね。これは、簡単なようでとても難しいことです。


彼は、サンノゼで会社を閉鎖するという仕事もしました。これはとてもつらい仕事です。自分は日本に帰ればすむけれど、現地の人たちはそういうわけにいきません。この世の営みは実に厳しいものです。そういう中を”神様の愛の使者“として生きる。それがクリスチャンの使命なのですね。


『律法の全体は、「自分を愛するように、あなたの隣り人を愛せよ」というこの一句に尽きるからである。』(ガラテヤ書5:14)


Mさんは、「部下を愛し、部下も彼を愛した」という世界があったのだということを教えてくれました。私には、もう、遅いけど、今、夜おそくまで働いているみなさんには、是非Mさんのようになってほしい、とそう思います。


文責: ロバート イー

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